ぼくりりと研究法8

ぼくのりりっくのぼうよみ」という音楽アーティストのライブ“Fruits Decaying Tour”に行った。ぼくりりのりりっくのぼうよみ通称“ぼくりり”はつい最近成人した男性ソロアーティストであるが、2017年は映画「3月のライオン前編」主題歌を担当したり、アネッサのCMソングを提供したりと弱冠19歳で世間に浸透しているすごいアーティストだ。ちなみに学年的に自分と同い年だ。

そのぼくりりのライブに今回行った訳だが、今回のツアーでは自分が好きな曲を結構やってくれた。その中で数曲取り上げて、教育研究法8の内容と結びつけて振り返ってみる。

 

「在り処」

“人は誰かに必要とされて
初めて人に成れると聞きました
その時ぼくは「死にたいな」と思いました
薄っぺらい目的論じゃ
生まれた意味を肯定しようが無いと知りました
意味無いな こんな人生何も意味無いなあ

生まれた時から茨の中
悪夢は未だ終わらない
焼け落ちた顔は知らない誰か
みたいに見えた
みんながあの目で僕を見てる
知らない言葉で傷つけてく

口実にされた既成事実
その産物は未だ死ねずにいる”

(2番の歌詞抜粋)

 

 この曲は2nd Album “Noah’s Ark”に入っている曲で、最後に「なんで未だ 死ねないのか」という一節で終わる。この歌詞の主人公は自分が世界から認められていないという気持ちを抱えたまま「生きづらさ」を感じている。この世界で自分の居場所があるとは思えないが、かといって自殺などでこの世界から消えることもできない。その2つの間のジレンマで思い悩む主人公の姿は大学受験期の自分の心理状況を思い出させる。

 今回の授業では、特別支援を必要とする生徒や夜間学校に通うお年寄りの人が討論で取り上げられていたが、「居場所(在り処)がない」と感じる機会が多いという点でこの歌詞の主人公とつながるところがあると思った。「生まれた時から茨の中」という言葉は障害を持って生まれてきた子、さらに「悪夢は未だ終わらない」というのは子どもの時に様々な事情から義務教育を受けることができなかった大人の人たちの学校教育を受けられなかったという思いが重なる。討論で自分が出した話題である、特別支援を必要とされる子どもが普通の子どもから冷たい目で見られることも、「みんながあの目で僕を見てる 知らない言葉で傷つけてく」という歌詞に当てはめることができるのではないだろうか。

 

落ち着かなくなるとクラスで問題を起こしてしまう自分。また今日もパニックになってしまってクラスの授業を壊してしまった… その時に周りの人が自分に向ける冷たい視線、そして白い目をもう私は覚えてしまった。支援学級の先生に教室から連れ出される際に聞こえてくる自分にはわからない言葉たち。もしくは何も言わずとも授業を壊した自分に対するクラスメイトからの怒り、嘲り、そして呆れの気持ちが伝わってくる。これが私を傷つけ続ける。自分がこれまでしてきた過ち(既成事実)を口実に、友達は他の友達と同じように私に接してくれることはない。このような状況によって生まれた今の私という「産物」は未だ死ねずにいる…

 

自分がいじめを受けたことのある友人から聞いた話も思い出しながら書いてみたが、このように考えているような特別支援を受ける子がこの世界のどこかに必ず存在すると思う。

 

「在り処」というキーワードについて学校生活という観点から更に深める。大学生になってからより強く実感したことだが、小・中・高で自分に与えられるロッカーや下駄箱、机が自分の居場所としてとても重要な意味を持つと思う。大学になると自分の居場所がないと感じる機会が多くなるが、それは自分だけが自由に使える専用の場所がサークルなどに入らない限り構内にないことが大きな要因の一つだと考えられる。学校生活で自分(主体)も自分以外の他人(客体)もみんな認識しているある人の居場所。「目に見える形」で自分の居場所が保証されている環境は自己の存在を自分で認める(アイデンティティ)ことにつながっていると思う。学校に入った瞬間、靴を入れる自分専用の下駄箱があること、荷物を入れる自分専用のロッカーがあること、座る自分専用の机があることによって生徒は無自覚ながらも学校が自分を受け入れてくれていると感じている。バレンタインデーやラブレターなどが自分の下駄箱に入れられていたりする甘酸っぱい青春ドラマが起きるのもこの場所だ。大学はゼミなどの少人数グループに分かれるまで自分の専用の場所など与えられないし、友達などのグループなどに自分の居場所を見い出す。しかしこれは有形物ではないからそれまでの学校生活とはどこか根本的に異なる。

このように説明してきた状況でより見えやすくなるのは学校生活での「いじめ」の形態の残酷さだ。小中学校のいじめが誰にもわかる形で表面化する一般的な形は先程述べた「個人専用の居場所に対する攻撃」である。下駄箱の靴に画鋲が入れられていたり、靴がなくなっていたり、机やロッカーに落書きがされていたり。これらはいじめ被験者に様々な意味でダメージを与えると思うが、1つとして「自分の居場所が否定されていること」が大きいと思う。靴がなくなっていて、「自分ではない誰かの靴を隠そうとして間違われたんだ」と考える人などいない。誰かから他でもない自分の居場所を攻撃されること。自分のアイデンティティを安定させる要因の1つを直接攻撃されることで、逆に存在を根底から否定されているように感じてしまう。ちなみにこれは大学では決して起こらないことである。鍵などは全くないので、いじめられている人はいつ何が起きるかわからない。そのような不安を抱えたまま学校に通うことになる学校の設備などに一度目を向ける必要があると思う。全部に鍵を付けるほどの徹底はしなくていいと思うが、机に落書きをする際にそれがどれほど深刻な精神的苦痛を相手に与えるのかを加害者が自覚してもらえるような内容を道徳教育で扱うことは必要である。

 

この曲は「在り処を見つけられない人」すべてに、どこかしらつながりのある曲であると思う。

 この曲はMV(ミュージックビデオ)も作成されている。内容は、歌詞にある「なんで未だに死ねない」をテーマに“死ねない”男を主人公とした衝撃のミュージックビデオでかなり衝撃的な映像だ。

https://live.line.me/channels/21/upcoming/886985

 

「sub/objective」

今回のライブのMCで聞いた話だと、この曲はぼくりりが何と15歳の時に作った曲だそうだ。作った年齢が衝撃的だが、内容もかなり斬新で歌詞は「主観(subjective)」と「客観(objective)」の狭間で揺れるアイデンティティについて書いたものである。中高生の頭の中で考える悩みを歌詞として実際に具体化したとても貴重な曲であり、弱冠17歳でデビューという肩書きに相応しい1st Album “hollow world”のリードトラックだ。歌詞を見ていく。

 

“いつしかすり替わる一人称から三人称へ 

二元論でしか世界を観れないのは哀しい
全てにapathyだから魂奪われて融ける 

いつしか物を見ている自分を見るようになった
人からどう見えてんのか 

それだけ気にしてる 

なんて素晴らしい人生だろう”

 
「二元論でしか世界を観れないのは哀しい」と主体(行動する自分)と客体(自分の行動を見る自分)のみでしか世界を観ることができない自分を哀しみ、それがわかっていながらもなぜか抜け出せない。頭では理解していても心をコントロールできない。それを「融ける」とぼくりりは表現する。

「いつしか物を見ている自分を見るようになった」というのは自分を客観視することができるようになったことを表し、そしてそれと同時に「人からどう見えてんのか それだけ気にしてる」と他人の視線を気にし出す。思春期の子どもは、もともと主体(subject)が大きく占めていた状態から客体(object)が大きく精神世界を占める状態に移り変わる。そして客観視に傾きすぎると人の目を過剰に意識し、本来の自己を見失う(アイデンティティの不安定化)。そのような状態を「なんて素晴らしい人生だろう」と皮肉を込めて歌うぼくりりのアーティストとしての表現力は凄まじいと思う。

 

“世界が反転 引き裂くプライド 
ズタズタにしては 捨ててきた愛情
要らないものをひとつひとつ
最後に残った一つは一体なんだろうね”

 

世界が反転するほどの思考の転換を迫られる時期が各々の思春期などに存在すると思う。プライドが引き裂かれ、さらには愛情すらも捨ててしまう。青年期のモラトリアムでは成長するために今まで自分を守ってきたものをズタズタに削ぎ落としていく。そして最後に残ったものは何だろうね?とリスナーに問いかける空白も歌詞の捉え方を自由にしている。先ほどと同じように、最後の1行でリスナーが意味を捉えることが自由にできる歌詞がぼくりりの歌詞に普遍性を持たせていると思う。

 

後の歌詞では、青年期に特に強く感じる本音と建前の矛盾なども描かれている。このように、現代社会の青年期の葛藤を言葉で的確に描くぼくりりは、この時代を生きる若者たちの気持ちを代弁する第一人者であると思う。

 

MVの映像もsubjectiveとobjectiveの二者が絡み合う、かなり意味づけがされたものになっている。

https://youtu.be/HKThn7Phxkk

 

あともう1曲取り上げようと思ったがかなり長くなったのでこの辺で終わる。

是非ぼくのりりっくのぼうよみというアーティストの音楽を聴いてみてほしい。

 

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